油膜、腐敗臭。熱心な飼育者ほどぶつかる悩みにフォーカス GEX.LABOの研究結果

栄養価が高くメダカはよく食べるが、エサを与えているうちに、水面に白い膜(油膜)が張ってしまったり、水換えのときに腐敗臭を感じた経験はないだろうか。
これは、魚フードの栄養価を高めた結果、水の汚れの原因となる成分まで入り込んでしまったことが原因 ──── そんな仮説を裏付ける、ジェックスラボの研究結果をご紹介。

特にメダカ飼育の場合、”エサ”に工夫をしている人は他の魚種よりも多い。頻繁に給餌をしたり、栄養価の高いエサを与えたりと、メダカは稚魚(針子)から若魚までの成長速度を重視している人も多く、その半面、メダカ飼育独特の”水の悩み”に直面する頻度も高い。
今回、GEX.LABOから非常に興味深い”エサ”の栄養成分と”水汚れ”の研究結果が発表されたとのことで、その内容を編集室から研究担当者に聞いてみました。

GEX.LABO研究者 楠ひかり

──── (編集室)魚に必要な栄養に関する問題を研究中と聞きました

(GEX.LABO 楠さん※以下”楠”)はい、今、GEX.LABOではエサの栄養の中でも、「メダカ」に必要な栄養についての研究を行っています。2022年に発売した、育てる栄養ウォーターもその研究から生まれたもので、次はエサ(フード)になにか応用できないか、と考え新商品の最大のポイントに盛り込みました。

 ─── ”水汚れ”というと、様々種類があると思いますが、メダカ飼育特有の悩みにつながるものがあるのですか

(楠)飼育者の方が”水の汚れ”と認識する現象の中でも、メダカの場合は「メダカに良い”汚れ”と悪い”汚れ”」がある、と飼育者の方の印象にはあるようです。

 ─── 良い”汚れ”と聞くと、あまり馴染みがないですね

(楠)例えば、コケやアオコ、です。コケやアオコは観賞を損なう、という反面、メダカにとっての栄養にもなっている、という認識が飼育者の方にはあるので、金魚や熱帯魚飼育と比べると、受け入れている方も多いと思います。特に屋外飼育環境では自然に発生するものでもあるので、無理に解決しよう、ということはしない人も多いようです。

 ─── 反対に、メダカにとって”悪い汚れ”とは?

(楠)GEX.LABOでは実際に市販されているメダカフードを検証、試験していますが、共通しているのは栄養価が高いフードは、水を汚しやすい、ということです。その中でも、例えば油膜の発生は水面の揺れがなくなることで、酸素が溶け込みにくくなることがあります。また、特に稚魚は油膜の上に乗ったエサをうまく食べることができないなど、メダカにとっては非常に「悪い」といえる汚れだと思います。

また、グリーンウォーターなど、メダカにとって良い環境とも言える「濁り」もあれば、白濁りなどのバクテリアのバランスが崩れることでの濁りもあります。バクテリアのバランスが崩れることは、水の腐敗につながることもあります。

 ─── 水の腐敗、というと、ニオイの問題にも直結しそうです

(楠)はい、その通りです。メダカ飼育は屋外でろ過フィルターやエアレーションをせずに楽しむ方も多いと思います。その場合、自然の力で水を浄化するか、水換えを毎日行うなどして水質を良好に保つ必要があります。しかし、またそこで「しっかりエサを与えたい」という飼育者の想いと「水の腐敗や油膜の問題」が顕在化してしまいます。

実際に飼育者の方へのアンケート結果からは、「ニオイ」を問題として感じる方が非常に多いことにも驚きました。詳しく聞いてみると、お部屋の中で楽しむアクアリウムの「なんとなくニオイがする」という悩み経験とはやや異なり、メダカの場合は「水換えのときに、容器の水が臭う=メダカにとって悪い環境になっている」と考えているようでした。

 ─── ここでも、「メダカにとって”悪い”水汚れ」の認識がある、ということでしょうか

(楠)そうですね。メダカの場合は、水質が悪化すると泳ぎ方が活発でなくなったり、エサを食べる勢いも悪くなるので、比較的飼育者は気が付きやすいと思います。ですので、油膜は「高栄養価のエサを与えれば発生する、仕方がない」、ニオイは「水質が悪化している、水換えしかない」と、どこかで半分諦めながら、お世話をしているのでは、と思いました。

その飼育者の「仕方がない」という悩みを、なんとか新しい発想で解決できないか、ということが今回の研究のテーマでした。

新原料で本当に「メダカに必要な栄養」を見極めたら、答えが見えてきた

 ─── (編集部)研究のなかで答えが見えてきた、ということしょうか

(楠)もともと、ジェックスではメダカフード市場の中では比較的早い段階から「昆虫原料」の活用に取り組んでいました。熱帯魚フードではそもそもの食性に近づけることで嗜好性を高めたり、検証の結果、今まで以上の色揚げ効果(魚体を美しくする)を確認できたり、一定の効果を検証できました。

メダカフードへの応用のための研究でも様々な成果は現れたのですが、その「要因」がなかなか掴めませんでした。

 ─── 何が原因でそのような結果に結びついているか、という答えが見つかったということでしょうか

(楠)フードにとって重要なのは、魚の成長につながる栄養が含まれること、というのはもちろんですが、吸収できない余計な栄養や、本来魚に必要のない栄養は、これまでお伝えした「油膜」や「ニオイ」の原因になるだけで、本来は含まれている必要はありません。

しかし、商品の裏面などにある成分表示からだけでは、それは読み取れません。表示されているのはあくまでも「成分分類上の数字」なので、重要なのは栄養のさらにその中身、と考えました。

 ─── 「昆虫原料」がその答えの一つになる?

(楠)はい。これまでの観賞魚用フードのタンパク質に関わる原料のほとんどは、「魚粉」です。「魚粉」と「昆虫原料」にどんな差があるのか、ということを成分レベルで解析しました。解析の結果、驚く結果が出ました。

まず、大前提としてですが、現在普及している昆虫原料すべてで同じ結果が出るわけではありません。ジェックスが使用するアメリカミズアブの幼虫を使った昆虫原料でさえ、その栄養価はまちまちです。それは、アメリカミズアブを育成するための飼料や環境によるわけですが、ジェックスのインドネシア工場で管理している昆虫原料の品質は非常に良質です。原料レベルから管理できるかが、最終的な完成品であるフードの品質に影響します。

 ─── どんな結果が出たのでしょうか

(楠)はい。こちらのグラフをご覧ください。

これらの数値が示しているのは、メダカ(魚)の嗜好性、つまりよく食べるかどうか、に関わる結果です。一般的な魚粉原料と比べて、圧倒的に高い嗜好性に関連する成分を含有していることが確かめられました。魚粉の一部を昆虫原料に代替することで、フードそのものの嗜好性を高めるとともに、脂質を増やすことで嗜好性をあげるような、”悪い水汚れ”につながる配合を改めることもできます。

 ─── 水汚れにかかわる結果も改善されたのでしょうか

(楠)今回開発しているフードの最大のポイントはその点にあります。水汚れを指数化したところ、市販品と比べて約40%汚れを抑え、濁度(濁り)試験では市販品と比べて90%以上の改善が確認されました。

もちろん複数の善玉菌を配合している効果もあります。配合している善玉菌は菌による汚れを抑える効果だけでなく、魚の体内にも働きかけます。昆虫原料で嗜好性を高め、善玉菌で更に水の汚れを抑え、さらに、水汚れの原因になる余計な栄養分を含まない。そんなフードが開発できていると思います。

昆虫原料を配合した初めてのメダカ用フレークフード 2023年2月発売

メダカブリーダーの経験とGEX.LABOの知見の合せ技

 ─── メダカのプロブリーダーさんのノウハウも大きいですか

(楠)はい。メダカブリーダーさんと直接相談させていただいたり、イベントに参加してご意見を聞いたり、商品開発を一緒に行うこともあります。ブリーダーのメダカを育てるための経験値は、私達とは比較にならないくらい深く、また専門的です。GEX.LABOはその経験をもとにしたブリーダーの意見や、現象に対する考え方を数値化したり、再現性を持たせるような研究と検証を行うことも数多くあります。

GEA.LABOだけでは補いきれない検証については、大学機関と更に深く研究しているテーマもあります。メダカという小さな生きものの体の中で起きていることや、水槽環境で起きていることを、数値とデータで検証することで、ブリーダーさんのノウハウと結びついているように思います。

日照不足から稚魚が育たなくなる事象や、秋口の稚魚育成の難しさを解消する、「メダカ元気 育てる栄養ウォーター(2022年発売)」は、まさにブリーダーの経験、ノウハウとGEX.LABOの研究から生まれた商品でした。

今回、「油膜」や「ニオイ」に着目したのも、ブリーダーさんたちが飼育者の方から「よく聞かれる悩み」だったこと、そしてブリーダーのような管理方法(毎日水換え、などで)が現実にはできない、という飼育者の方からの声を数多く聞いたことがきっかけでした。

 ─── これからの課題は

(楠)フード開発でテーマにしたGEX独自の昆虫原料の使用は、メダカの立場からすれば「もともとの食性に合っている原料」ともいえます。自然界でメダカは魚粉を食べていません。ですので、フードはもちろんですが、メダカの立場から考えた「良い環境」とはどんなものなのか、飼育者のベネフィットとともに、メダカが喜んでくれるような発想で研究ができたら、と考えています。

 

編集室:「水を汚さない(水キレイ)」が魚フードの”当たり前”になっています。しかし、これからは”水の汚れ”の中身を「魚の立場」から考える必要があるかもしれません。また、魚粉を昆虫原料に徐々に代替していくことは、SDGsを持続的に達成していくためにも、これから欠かせない開発コンセプトになります。

新しい魚フード開発にメダカさんたちにも期待してもらいたいですね!