新たな試み―描画法を用いた評価の確立―

ジェックス株式会社は、大学と共同でお魚飼育(アクアリウム)を通じて人が得られる効果を研究しています。近年では小さいお子様がお魚と触れ合うことによる効果の研究に力を入れています。今回、小さなお子様がお魚を飼育することによって得られる効果を客観的・定量的に明らかにするため、描画法を用いた研究を行いました。なお、本研究成果は論文として、「日本保育学会73回大会発表論文集」に掲載されております。

研究の背景

幼児期の小さなお子様が、生き物に接することは非常に重要です。幼稚園や保育園など保育の現場でも、様々な生き物が飼育されている事例が多く、文部科学省が2018年に告示・改定した【幼稚園教育要領】にも、幼児が身近な動植物と接することは生命の尊さや道徳性を育むために重要であるとされています。保育の現場において、動物介在教育と称した効果の研究が行われていますが、現場での実践報告にとどまったものがほとんどです。

そこで私たちジェックス株式会社は、岐阜大学地域科学部 教授 合掌顕先生、中部学院大学教育学部 准教授 水野有友先生と共同で、幼稚園におけるお魚飼育の効果を客観的・定量的に実証する研究を行いました。

描画法とは

その人の人格を理解する方法の一つです。描かれた絵の内容から描いた人の心にある感情・願望・態度などを読み取ります。絵に表すことで言葉ではうまく表現できない心の動きを知ることができ、言葉が未発達なお子様でも実施することができます。

実験概要

GS市にある幼稚園の年長組園児55名に協力してもらい実施しました。キンギョ(リュウキン)を年長組の教室で飼育してもらい、当番でキンギョのエサやりを行ってもらいました。キンギョの飼育前と7ヵ月飼育してもらったタイミングで、A3の用紙に一人一人キンギョの絵を描いてもらいました。その絵を描画法にて評価しました。描画法はS-HTP法(S-HTP法は、1枚の用紙に、家・木・人の3つ全てを描いてもらう検査)を応用した独自の指標を用いました。

結果・考察

1. お魚飼育によってお子様が自信を持ってのびのびと表現できる可能性が見えた

用紙全体を使ってキンギョを描いた園児の割合を見ると、飼育前の絵は63%だったのに対し、飼育後に描いた絵は92%と有意に増加していました。飼育によって、キンギョへの理解を高め、自信を持つことで用紙全体を使う割合が高くなったと考えられます。

2. お子様がお魚と触れ合うことで、感情のある生き物として認知する可能性が見えた

飼育前に描かれた絵にて、57%の子がキンギョを擬人化(笑顔など)して描いていました。実験を行った幼稚園では実験前から園内の廊下でキンギョが飼育されていました。このことから、被験者のお子様たちがキンギョはどういうものかを認識していた可能性が考えられます。半数以上の子がキンギョを擬人化していたことから、モノではなく、感情のある生き物として認知していると考えられます。

3.お魚飼育を通じてお子様の観察力が育まれる可能性が見えた

キンギョを1尾だけ描いていた絵は、飼育前は52%だったのに対し、飼育後の絵は13%となっていました。また、用紙の1/4以上の大きさでキンギョを描いた絵の割合で見ると、飼育前は61%だったのに対し、飼育後は25%になっており、それぞれの項目で有意に減少していました。さらに、キンギョの擬人化の割合を比較すると、飼育前は57%だったのに対し飼育後は21%と、こちらも有意に減少していました。これは飼育されているキンギョの数や大きさ、表情などを観察することで、写実的に表現する傾向が高くなったためと考えられます。

まとめ

今回の研究で、お魚飼育を通じて幼児期のお子様の観察力が育まれている様子や、お魚を生き物として捉えている様子などが伺えました。文部科学省の幼稚園教育要領にもあるように、幼児期に身近な動植物と接することは生命の尊さや道徳性を育むために重要であると判断されます。今後は、小動物や爬虫類など他の生き物でも同様の研究を行い、それぞれの生き物によるお子様への効果を明らかにしたいと考えています。また、個人内の変化と個人の興味関心との関連性も合わせて検討する必要があると考えます。

 

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